診療案内
小児ぜん息の発症とウィルス感染
~獨協医大 吉原重美先生 講演会より~
●0才~3才の乳幼児はウィルス感染によって「かぜ」を引いてしまうことが多いのですが、これがきっかけで「ぜん息」をおこす事がよくみられます。
「かぜ」をひくと、ウィルスにより気管支の表面が壊れてしまいます。これが繰り返しおこるとぜん息に進んでいきます。
●赤ちゃんのぜん息は症状(ゼイゼイ、ヒューヒュー)が1回でも出たら、できるだけ早くぜん息の治療をしましょう。
●9月~10月の秋の間だけでも、ぜん息のお薬(オノン)を内服していると、症状の悪化を防ぐことができます。
●夏にしっかりとアドエアーで吸入治療をしておくと、秋にその予防効果が出てぜん息発作を減らすことができます。
調子の良い夏にこそぜん息の治療をすることが大切です。
●ぜん息には次の二つのタイプが見られます。
A)アレルギーが原因でおこるぜん息
このタイプは「吸入ステロイド薬」が効果的です。
B)ウィルス感染(かぜ)が原因でおこるぜん息
このタイプのぜん息には「オノン」が効果的です。
乳児の気管支ぜん息治療の問題点
~順天堂浦安病院 松原知代先生講演会より~
①赤ちゃんの「ぜん息」でも、肺の中の気管支(空気が通る道)の
壁が厚くなる「リモデリング」という、変化がすでに見られていますので早期に治療を開始しなければいけません。
厚くなった気管支の壁は元に戻る事があまりないからです。
②鼻みずの多いぜん息のお子さん(学童)は副鼻腔炎(蓄膿症)の合併を考えて、抗生剤(クラバモックス)を6週間内服すると、
ぜん息が改善してくることがわかっています。
鼻汁の多い赤ちゃんのぜん息でも同じような治療も良いのではと推測されます。
③赤ちゃんのぜん息で、感染による「ぜん息発作」を頻回に繰り返す場合は、体を感染から守るために働く「免疫グロブリン」という
タンパク質の一部が欠損していることが多くみられます。
この時にはぜん息の治療だけではなく、欠損している免疫グロブリンの点滴で定期的に補充する治療が必要になります。
④赤ちゃんのぜん息治療をしっかりとしているにもかかわらず繰り返す喘鳴のぜん息があります。
特徴は、
a)ステロイドの内服をしても改善しません。
b)気管支を拡げる吸入薬をしても喘鳴の改善がよくなりません。
※この場合は、GERD(胃食道逆流症)が考えられます。
a)胃から食道に胃の内容物が逆流してしまい、その結果として
気管支が収縮して「ぜん息」がおきるのです。
b)手術治療もしくは、胃炎・食道炎のお薬(ガスター、ガスモチン)での治療が必要です。
※ぜん息のお薬は効きません。
⑤赤ちゃんのぜん息は、どこから症状が出たかというのは難しいことが多いですので、赤ちゃんにぜん息の可能性がみられたら、
ぜん息の治療を開始して、良くなれば良いのかと考えられます。
見落としがちなぜんそく発作
最近ぜん息の症状が出ているお子さんが目立ちます。
症状にはいくつかの特徴があります。
長期管理薬物療法
~千葉大学 川野陽一先生 講演会より~
ステロイド吸入液(パルミコート吸入液やアドエアー)の使用において、低身長や副腎機能の抑制、血圧や脈拍に影響する等の副作用はみられておりません。
アドエアーを使用しているお子さんのぜん息症状が安定している時には、アドエアーからステロイド単独の吸入(フルタイドetc)に変更し、吸入薬の減量をすると良いと考えられています。
この減量は「2年間ぜん息の症状が全くないことを確認」してから考えた方が良いでしょう。
お子さんにぜん息症状がない状態でも、気管支拡張薬の吸入をした後の呼吸機能が改善しているようであれば、
ぜん息はまだ治っていないことになりますので、ステロイドの吸入薬の治療は継続する必要があります。
ステロイドの単独吸入薬を使用していても、ぜん息症状が良くならないお子さんでは、吸入薬をアドエアーに変更する以外に次の治療があげられます。
①他のステロイド吸入薬(アドエアー以外のもの)に変更してみる。
②気管支拡張薬の吸入(セレベント)を追加する。
③ロイコトリエン拮抗薬(オノン・キプレスetc)を追加する。
①②③については、お子さんによって治療の反応性が異なりますので、
外来で症状をみながら対応していくことが重要です。
お母さん方は、お子さんのぜん息症状をより軽めに判定する傾向があります。
お子さんがぜん息発作で眠れなくても、症状が重いとは思わない傾向があります。
夜間に眠れているか、学校を休まずに行けるかなどが症状の目安になります。
ぜん息の内服薬は保護者の方がきちんと管理しましょう。
お子さんだけにまかせてしまうと飲み忘れが多くなり、ぜん息発作がよくなりません。
ぜん息のお子さんの治療目標は、ぜん息の症状がかるくなり、完全に治ることです。
症状が軽い状態というのは、夜間の睡眠を含めて日常生活に支障がないこと。
そして、発作時の内服薬や吸入薬の必要が全くないことです。
小児ぜん息治療の「ポイントとコツ」
①乳幼児のぜん息では、ロイコトリエン拮抗薬とステロイド吸入療法が同等の効果があります。
②15才以下の児のぜん息では、「低用量」(少ない量)のステロイド吸入療法で80%程度に効果があります。
③*タバコの煙があるお家や*ダニがたくさんいるお家では、まずこれらの環境を改善してぜん息の治療をしましょう。
*の環境にいるお子さんとそうではないお子さんでは、同じ治療を行うことは出来ません。
*の環境にいるお子さんの治療のほうがより難しくなります。
④難治性のぜん息では、別の原因が隠れていることがあります。
1)ステロイド吸入薬が上手に吸えていない時。 吸入するときは、「ゆっくり」と「しっかり」吸うことが大切です。
2)ぜん息ではなく、結核などの細菌感染や副鼻腔炎(ちくのう症)が隠れていることがあるので、検査が必要なことがあります。この場合、咳の原因はぜん息ではないので、それぞれの病気の治療が必要です。
「ぜん息」との上手なつきあい方
①ヒューヒュー・ゼイゼイする呼吸音が聞こえたり、お子さんが呼吸困難を訴える、いわゆる「典型的なぜん息発作」は、お母さん方はすぐに気づかれることが多いのですが、咳がひどい・咳き込む・咳き込んで嘔吐してしまう・夜間、咳がひどくて眠れない・朝方や夜間は咳がひどいが、日中はあまり出ない、というような「ぜん息発作」は、気づかれることが案外少ない傾向にあります。
②上記のような「気づかれにくい症状」があれば、「ぜん息」を考えて、治療をした方がよいでしょう。ぜん息の素因がないお子さんは、このような症状は全く出ないからです。
③「ぜん息かな?」と思ったら、病院で診察を受け、治療してみることが大切です。早期発見・早期治療すれば、軽症なら2週間程度のお薬で、症状はよくなります。
④始めのうちは、短期の2週間治療でもよいので、まず症状を治すことが大切です。繰り返しますが、ぜん息の素因のないお子さんでは、特別な咳の症状は出ません。
⑤「咳」の症状を、「気管支炎」と「ぜん息」で、どう区別するのかというのは、専門家でも難しいことがあります。「気管支炎」は、咳が少しひどい程度で「痰がからむ」のが特徴で、①のような症状は出ません。ただし、「ぜん息」のお子さんが、何らかの感染(細菌感染やウイルス感染)で「気管支炎」をおこすと、「ぜん息」の症状は、一気に悪化します。
「気管支炎」は、「ぜん息」のお子さん以外でも普通にみられます。「ぜん息」の咳は、発作が重いと「痰のからまない乾いた咳」となるのが特徴です。
⑥「ぜん息」には、発作が出やすい季節があります。主に、「梅雨」と「秋」の季節の変わり目に多くみられます。また、お天気の影響を受けやすい「ぜん息」のお子さんは意外と多く、雨や気温の急激な低下がみられる前に、咳が始まることがよくあります。「気管支炎」では、このような季節の影響を受けることは特になく、一年中みられます。
⑦「ぜん息」の治療のお薬は、とてもよいものが沢山あります。お薬にも「相性」がありますので、Aのお薬があまり効かなくても、Bのお薬が効くことがあります。まず、お薬による治療を始めてみることが重要です。
1回の治療が2週間前後で「ぜん息」の症状がなくなった場合でも、この2週間の治療が月に1回~年に6回と回数が多い場合は、「ぜん息」の発作が長期間続いていることになりますので、「ぜん息」の治療は長期に必要になります。「ぜん息」は、気管支や肺の中の慢性の火事のようなものですから、「ぼや」が何回も続く時は、火事が消えていないことになります。火事は消さなければ、火事の焼け跡が残ってしまって、気管支や肺がダメージを受けていくのです。お子さんのうちに「ぜん息」は治しましょう。
⑧定期的に「ぜん息」のお薬を使われているお子さんは、発作はあまり出ずにすみます。症状がない時の治療こそが、「ぜん息」には、実は最も有効な治療法なのです。
肺機能検査によるぜん息の評価
小児のぜん息は、肺機能検査による評価が大切です。
ぜん息のお子さんは、症状がない時に、本当にぜん息がよくなっているか、診察だけでは判定ができません。特に6才以上のぜん息のお子さんは、慎重な評価が必要です。ぜん息の呼吸機能を検査することで、お子さんの真のぜん息の状態が把握できるのです。
例えば、
①以前にぜん息発作があったが、現在は発作が全くみられず、お薬も使用していないお子さんを肺機能検査で見ると、
A・「肺にぜん息の状態がまだ残っている(呼吸障害がまだある)」のか、
B・「本当にぜん息の状態が消えて、正常の肺になっている(呼吸障害がない)」のかが、区別できるのです。
検査は簡単ですので、客観的な判断ができます。
もし、呼吸障害の検査結果が出た時には、年に3回程度の肺機能検査をして、経過を見ていく必要があります。
②ぜん息でお薬を使われているお子さんが、症状がない時に肺機能検査をすると、
A・肺機能で呼吸障害がみられる場合には、肺機能がよくなるまで治療が必要になります。
B・肺機能で呼吸障害がみられない場合には、治療の効果が十分出ていますので、このまま継続して治療を続ければよいことになります。
この場合に、ぜん息発作がおきている時に肺機能検査をすると、呼吸器障害が一時的にみられますが、ぜん息発作がよくなると、呼吸器障害は改善して正常化しますので、症状の具体的な評価にも役立ちます。
③隠れているぜん息のお子さんの早期発見にも有効です。
例えば
・ぜん息発作はおこしていないが、運動したり走ると咳が出る
・タバコの煙を吸うと咳が出る
・アイスクリームなどの冷たいものを食べると咳が出る
などは、隠れたぜん息発作ですので、このような6才以上のお子さんは、肺機能検査をして、ぜん息の呼吸器障害がないかどうかの判断ができます。
運動をして咳が出る運動誘発性ぜん息のお子さんは、意識的に自分で運動を控えることが多いので、早期に発見して、日常生活を正常に戻してあげることもできるのです。
④肺機能検査をみることで、お子さんやお母様方が正確にぜん息の状態を把握できますので、ぜん息治療の必要性と目標を立てることが明確にできます。
⑤肺機能検査をみることで、重症のぜん息の見落としがなくなり、結果としてお子さんの日常生活の改善につながります。
⑥長期にわたってお薬を使用しているぜん息のお子さんで、肺機能検査をみることで、お薬の中止が治癒になったとは言えないということが、はっきりわかります。見かけ上のぜん息の状態と、実際のぜん息の状態には差があるということは重要な点です。
喘息(ぜんそく)
「ぜんそく」という病気は主に二つの経過に分かれます。
まず第一は、ぜんそく発作といって空気の通り道である気管支が狭くなり、空気が出入りしにくくなり、呼吸がしづらくなる症状があります。
発作のときには気管支が狭くなることで吸い込んだ空気を充分に吐くことができないためにゼイゼイ、ヒューヒューという音がしたり、胸の肋骨や鎖骨の上やのどのところがへこんで呼吸をずる陥没呼吸をしたり、激しい咳になったり、咳込んで嘔吐したり、咳がひどく眠れない状態になったり、機嫌が悪くなったり、肩に力をいれて呼吸をする努力性呼吸になったりします。
咳が夜間や早朝にひどくなったりするのに
昼間は咳はあまり出ないで上記のような症状(ゼイゼイ、
ヒューヒューなど)みられないものを咳ぜんそくといいます。
これもぜんそくの中に含まれます。
発作のときには気管支をひろげるお薬(β2刺激薬)を使う事が必要ですが、最も症状の改善が早いのはβ2刺激薬の吸入をすることです。 これはクリニックにありますので、来院していただければ早く呼吸を楽にする事が出来ます。呼吸が楽になったら、その後からぜんそくのお薬の開始が必要になります。 ぜんそくのお子さんでは、β2吸入剤の早めの使用が大切です。 咳の出始めの時から気管支を拡げるβ2吸入剤の吸入をするとよく効きます。クリニックでこのお薬を用いての吸入治療をするのが一番良いのですが、すぐに来院できない夜中や旅行先では携帯用のβ2吸入剤がありますので常備しておくとよいでしょう。咳が出始めて「ぜんそくの始まりかな?」と予感がしたら、すぐに吸入を開始するのがベストです。
主に用いられるのは、β2刺激薬(気管支を広げるお薬)のテープをお子さんの背中に貼ることが簡単な治療でず。これに加えてロイコトリエン拮抗薬を内服するのが良いでしょう。
はじめの症状が重ければ最初から気管支の炎症をおさえて、気管支の炎症の改善をはかるステロイド吸入薬を使用しても良いでしよう。
近年はステロイドの吸入薬を早期に開始することでぜんそくの悪化を防ぐことが出来る事が分かっています。
乳児ぜんそくの特徴 乳児ぜんそくには特徴があります。 ①2才未満でぜんそく発作が初めて起こります。 ②アトピー性皮膚炎・食物アレルギーを合併することがあります。 ③家族にアレルギー(ぜんそく)が見られます。 ④血液検査で「ダニ」にアレルギーが見られます。 ⑤血液検査で「好酸球」という検査数値が高くなっています。 ⑥治療すると改善しますが、早期に治療が中止されてしまうケースがあり、 本来必要な治療が継続されないことがしばしば見られます。 大切なのは、継続的な治療を、早期に開始することです。
5才以上のぜんそくのお子さんの場合には、β2刺激薬(気管支を広げるお薬)の吸入タイプもあります。
ぜんそく症状が重い時には、ステロイドの吸入薬で気管支の炎症をおさえて、さらにβ2刺激薬の吸入薬で狭くなった気管支をひろげるお薬が別々に必要でしたが、最近この両者をひとつの吸入器にまとめたものが使用できるようになりました。
ステロイドの ステロイドの吸入薬とβ2刺激薬の吸入を別々に吸入するよりも、
ひとつの吸入器で合剤になった新しい吸入薬のほうがより一層ぜんそくの症状改善に早期に効果がでるということがわかってきました。
今後はこの合剤がぜんそく治療の主流になってくるものと思われます。
第二はぜんそく発作が落ち着いてきたときに何が必要かということになります。
軽症であれば2週間程度のぜんそくの炎症をおさえる抗ロイコトリエン拮抗薬と気管支をひろげるβ2刺激薬のテープなどで大丈夫ですが、発作を何度も繰り返すお子さんやぜんそく発作で点滴治療が必要だったお子さん、ぜんそくでの入院のエピソードがあったお子さんでは少し長期にお薬が必要になります。具体的には上記の治療にステロイドの吸入薬が追加となります。
ぜんそくは発作の症状がない状態でも、肺の中の気管支では慢性の炎症が継続して起こっている事が多いので、この炎症をおさえて気管支を正常化するために主に効果があるのが吸入ステロイド薬です。
少しだけ治療してぜんそく発作が起き、再び少しだけ治療してぜんそく発作が起きるという状況を繰り返していきますと、気管支の慢性の炎症が進行して気管支の壁が厚くなり、治りにくい状態となります。
ですからぜんそくのお子さんで発作が小さくても発作の回数が多い方では
症状がない時でもぜんそくの治療が必要になるわけでず。
ぜんそく発作が吸入薬や…
ぜんそく発作が吸入薬や飲み薬でも改善しない場合は
ステロイドと抗生剤の入った点滴治療が一時的に必要
となります。
吸入ステロイドはあくまで気管支の炎症をおさえるもので
すので、ステロイドの内服と違って、全身の副作用の心配はありません。ステロイドの吸入をしていても、身長が伸びないといった成長障害がおこることはこれまでの研究でも問題がないことが証明されています。
ぜんそくの治療をしていても発作が多い時には必ず原困があります。
①感染症がある場合
前述したとおりですが、溶連菌感染症やインフルエンザの感染やマイコプラズマの感染を合併している時にはこれらの病気の治療を同時に必要とします。
発作が多い時にはこれらの感染症の合併がないか考えましょう。
②慢性副鼻腔炎(ちくのう症)がある場合
ちくのう症があるとぜんそく発作はよくなりません。
ちくのう症合併例ではちくのう症の治療をすると劇的にぜんそく発作がよくなります。
ぜんそくのお子さんは鼻の病気の合併症が多いので注意が必要です。
いびきをかくとか鼻がよく出ているケースは、ちくのう症の合併がないか考えましょう。
③胃食道逆流症(GERD)がある場合
口から食べた食物は食道を通って胃に到達します。
この流れは一方通行になっているのが普通のお子さんなのですが、まれにこの一方通行がうまくいかず、胃に入った食物が食道を通り、逆流して気管支に入り込んでぜんそくのような咳になることがあります。
このケースでは、胃食道逆流症の治療をしないと咳は改善しませんし、ぜんそくの治療は効きません。